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< 初めて海を見たところ >

海がない栃木県の少年にとって、茨城の大洗海岸は怖いところだった。 

昭和の中頃、私ども庶民家庭に属する者たちは、休日になると、現在に比べ数が限られた観光地に「どっと繰り出す」のをならいとしていた。かくいう石山少年も数年に一度、家族や近所の子どもたちと連れ立って大洗海岸に海水浴に出かけていたクチだった。 

だがそこは駐車場は奪い合いで、砂浜はいろんな意味で興奮気味の若い男女でごった返していた。誰の家だかわからない海の家はぼったくりだし、元来ビビりで泳ぎができない私にとって、海の波と戯れるのはおおむね苦痛だった。 

さらに大洗の昭和史をさかのぼる。 

昭和7年に「血盟団事件」というテロがあったことをご存じだろうか。元閣僚と財閥の総帥が都内の街中で狙撃され死亡した事件であり、その影響から3か月後に起きた5.15事件に派生していった。血盟団事件の実行犯は大洗で農業を営んでいた青年たちであり、井上日召というカリスマ的な仏僧を中心としたカルト集団は、事件を起こす前は大洗を拠点として活動していた。この町にある護国寺には、今でも井上の銅像が立っている。 

今回の物語「GREAT WASH」はこの町を舞台に、井上の架空の子孫がこの町でほんのちょっと先の未来を生きていたらどんなふうに過ごすだろうかと妄想して作った話だ。 

さて、そろそろお気づきかと思う。今回のタイトル「GREAT WASH」は、大洗を英語に直してみた、うん、ダジャレのようなものです。

石山 和彦
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